Story 骨粗鬆症編 慢性関節リウマチ 小児整形編 変性疾病編 スポーツ障害編 一般整形外科編
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骨を強くするお薬

  1. はじめに
     2000年に米国で開かれた国際会議で、骨粗鬆症は「骨密度の低下を特徴とし、骨折のリスクが増大しやすくなる骨格疾患」と定義されました。 わが国においては、人口の急速な高齢化を反映して、この骨粗鬆症の患者さんが急増しており、現在では1100万人と推定されております。 また、骨粗鬆症にともなう高齢者の大腿骨頚部骨折も増加してきており、寝たきりとなる主要な原因疾患として社会的な問題となってきております。
     今回は、この骨粗鬆症の薬を用いた治療についておはなしします。

  2. 骨粗鬆症の診断と治療はどのようになされますか?
     骨粗鬆症の診断には骨密度測定が用いられます。若年成人平均値(以下YAM)の70%未満であれば、「骨粗鬆症」、70-80%ならば「骨量減少」と診断します。
    なお、骨がもろくなったことによる骨折一脆弱性骨折一がある場合および脊椎の単純レントゲン検査で骨粗鬆化が認められる」場合は、YAMの70%未満でなくとも「骨粗鬆症」と診断します。
     骨粗鬆症の予防と治療の目的は、合併症である骨折により、寝たきりになるなどの生活のレベル、すなわちQOLが低下することを予防することです。
     まず前提として、骨粗鬆症の患者さんへの生活指導を含む食事療法と運動療法がありますが、これらにつきましては別の機会に譲り、薬物療法についてご説明します。
     あとで述べますが、現在骨粗鬆症の薬物療法にはおもに7種類の薬剤が臨床の現場で用いられています。これらを単独で用いることはほとんどなく、通常は複数の薬剤が組み合わされます。
     どの薬剤とどの薬剤を併用するのか、また投与間隔・投与量はどうするのか、あるいは組み合わせをいつ、どのように変更してゆくのか、また副作用の適切なチェックをするにはどうするのか。。。。。などの判断には、まず患者さん個別の骨粗鬆症のタイプを的確に把握することが必要です。すなわち、骨の吸収が昂進しているのか?骨の形成が低下しているのか?両者の混合型なのか?などの分類をいろんな精密検査でつきとめ、それらに応じた薬剤を選択します。
     そして綿密な治療計画と経過観察をおこなってゆくわけですが、これらについては専門的な知識と経験が要求されます。手前味噌になりますが、われわれのような骨と関節の専門医である整形外科医の「腕のみせどころ」なのです。
     具体的には、レントゲン検査による脊椎圧迫骨折などの骨折の有無、またこれにともなう背骨の曲がり具合一亀背といいます一および腰痛や下肢痛の程度などの臨床所見、骨密度(骨量)、骨代謝マーカー(骨形成や吸収の度合いをあらわす血液や尿の生化学検査)の変化などを総合的に検討します。
     薬剤の副作用でおこることがある肝臓腎臓障害なども綿密にチェックします。
     以上の結果、この患者さんにはこの薬剤、というようにいわばオーダーメイド的に選択がなされるのです。

  3. 骨粗鬆症のお薬にはどんなものがありますか?
    1>カルシウム製剤(薬品名:アスパラカルシウム)
    カルシウムは日本人に最も不足している栄養素です。 カルシウムの一日必要摂取量は1000mg以上を目安としますので、食事で補えない分を薬剤として補充します。過剰に摂取しない限り安全性は高いので広く用いられる基本薬剤です。
    副作用:胃腸障害・便秘・高カルシウム血症 腎臓結石

    2>活性型ビタミンD(薬品名:アルファロール、ワンアルファ)
    力ルシウム・リンの体内への吸収を促進し、骨の元になる細胞の活性化します。
    骨量の低下防止および増加作用があり、骨折予防効果が認められます。
    安全性も高いので、カルシウムとともに第一選択の薬剤として広く用いられております。

    3>カルシトニン製剤(薬品名:エルシトニン・エルカトニン)
    骨を壊す細胞の活動を抑制することで、骨の吸収を抑制します。
    また中枢性の鎮痛作用で、脊椎圧迫骨折などによる腰背部の痛みを抑えます。
    骨量増加させる作用があり、骨折予防効果も認められます。
    安全性が高く、高齢者にも用いられます。
    10ー20単位を週一回筋肉内注射します。
    副作用:過敏症(顔面紅潮、悪心、むかつきなど)

    4>ビタミンK2製剤(薬品名:グラケー)
    ビタミンK2は、骨を構成するある種のたんぱく質の合成に不可欠です。
    骨形成促進作用があり、骨密度を増加させます。
    副作用:胃腸障害、便秘
    併用禁忌:ワーファリンの作用を相殺するため、併用は禁忌です(この薬を循環器内科などで投薬されている患者さんはかならず主治医に告知してください)

    5>ビスフォスホネート製剤(薬品名:アクトネル、フォサマックなど)
    骨を壊す細胞の活性を抑えることで、骨吸収を抑制します。
    骨密度増加作用があり、脊椎圧迫骨折や大腿骨骨折の発症を予防します。
    副作用:腹部不快感 腎臓障害など

    6>エストロゲン製剤(女性ホルモン製剤)
    女性にとって女性ホルモンは骨吸収を抑える作用があり、したがって閉経によって女性ホルモンが低下することで、骨吸収が亢進し、骨粗鬆症にかかりやすくなります。そのため、女性ホルモンを補充することで骨粗鬆症の予防・治療に用いられます。
    副作用:(1)性器出血、乳房痛 (2)乳癌、子宮内膜癌、血栓症
    (1)については投与量を減らすことで対応が可能ですが、(2)のように致命的な副作用を有することが懸念され、米国では広範に用いられていますが、本邦ではいまだ広く用いられるにはいたっておりません。

    7>塩酸ラロキシフェン(薬品名:エビスタ)
    女性ホルモンの骨吸収抑制作用を選択的に増強します。ほかの作用をおさえたことで、女性ホルモン製剤の副作用をおさえることができます。
    副作用:静脈血栓 胃腸障害など

    8>イブリフラボン(薬品名:オステン)
    骨を壊す細胞の活性をおさえることで骨の吸収を抑制します。また、骨になる細胞の成長を助けます
    副作用:下痢、嘔吐、胃部不快感などの消化器症状

  4. 新しい骨粗鬆症の治療薬の研究はどうなっていますか?
    1>いま用いられている、ビスフォスホネート製剤、塩酸ラロキシフェン、活性型ビタ三ンDの効果を増強し、副作用を少なくし改良した製剤の開発がおこなわれており、順次臨床の現場に登場しております。

    2>まったく新しい薬
    (1)副甲状腺ホルモン(PTH)
    骨を形成する作用があるホルモンである副甲状腺ホルモン(PTH)を化学合成しました。
    現在海外で大規模な臨床試験がおこなわれ、骨密度増加作用、骨折予防効果などが認められました。
     数年後には臨床の現場に登場することが確実です。

    (2)抗RNKL抗体
    骨を壊す細胞の活性を阻害することで骨の吸収を抑制します。
    現在海外で大規模な臨床試験がおこなわれており、有望な新薬と期待されておりますが、実用化にはもうしばらく時間がかかりそうです。

    (3)ラネル酸ストロンチウム
    いままでの骨粗鬆治療薬とはまったく異なる作用で骨吸収抑制作用と骨形成作用の両方を有します。
     (2)とおなじく実用化にはもうしばらく時間がかかりそうです。

●骨の健康度チェック●

骨の健康度チェックイメージ骨粗しょう症の原因は、性ホルモンの影響や加齢によるものだけではありません。そのほかにも、もって生まれた体質や体型、性別、病歴、生活習慣など、さまざまな要因が影響しています。
危険度の高い人は、毎日の生活習慣に気をくばり、予防をしっかり行いましょう。また、すでに骨粗しょう症と診断された人でも、骨量が減るのをくい止め、骨粗しょう症の進行を抑えることはできます。


←back こんなあなたは注意して
当てはまる項目の判定欄に○をつけてください。
○の数で判定します。
食生活 好き嫌いが多く、偏った食事をしがち。
牛乳やチーズなどの乳製品、魚などをあまり食べない。
納豆や豆腐などの大豆製品をあまり食べない。
野菜や海藻類、キノコ類などをあまり食べない。
インスタント食品やスナック菓子をよく食べる。
テイクアウト食品や外食ですますことが多い。
生活習慣 運動する機会がなく、ほとんどからだを動かさない。
わずかな距離でも歩かずに車などを利用する。
階段よりエレベーターやエスカレーターを利用する。
10 極端に日光に当たる機会が少ない。
11 喫煙の習慣がある。
12 しばしば過度の飲酒を繰り返している。
体型・体質・
からだの変化
13 体格はどちらかというと細身、やせて筋肉が少ない。
14 家族に骨の弱い人や骨粗しょう症の人がいる。
15 最近背が縮んだ、あるいは背中や腰が曲がってきた気がする。
16 背中や腰が鈍く痛んだり、重苦しいことがある。
17 ささいなことで骨折したことがある。
18 つい最近閉経を迎えた、あるいは生理不順の傾向がある。
19 閉経している、あるいは卵巣摘出手術を受けた。
20 内臓や内分泌系の持病(肝臓・腎臓・胃腸疾患、糖尿病、甲状腺疾患など)がある。

●判定
○の数が0の人 今のところ、骨粗しょう症にかかる危険度は最小。このまま維持しましょう。
○の数が
1〜5の人
骨粗しょう症にかかる危険度は低めですが、油断は禁物。念のため骨粗しょう症検診を受けてみましょう。
○の数が
6〜15の人
危険度を高める不安材料がかなり多いようです。食生活や生活習慣の見直しをするとともに、骨粗しょう症検診を受けましょう。
とくに「体型・体質・からだの変化」に○が多くついた人は、すぐに医師による予防・治療の指導を受けたほうがよいでしょう。
○の数が
16〜20の人
骨粗しょう症にかかる危険度がたいへん高いので、できるだけ早く医療機関で骨粗しょう症検診をうけ、正しい予防法の指導と治療を受けましょう。


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