あうと・おぶ・ばうんず


わたしのライフワークー病診連携(診診連携)について

 しかしここで次に問題となってくるのは患者さんのいまも根強く残る「大病院志向」です。患者さんが紹介状無しに基幹病院を受診するケース、実はこれが多いのですが、これが本当は切実な問題です。

  病院勤務の時代、朝外来にいくとずらりと並ぶ白いカルテ、その多くが紹介状無しで受診された患者さんでした。そして、そのほとんどが、近くの開業医での保存治療の適応でした。これは患者さんの、いわゆる「大病院志向」が問題であり、改善すべき課題だとおもってきました。

 厚労省もそのへんはわかっているようで、紹介状なしでの大病院初診料を大幅に上げたりしていますが、いまだにいわゆる患者さんの「大病院志向」はいまも厳然と存在します。この「大きな病院にいけば安心」、という「意識」を変えていくためにさらに努力していかなければならないとおもいます。

 そういった意味では、わたしが開業しました医療ビルは、各科専門医が集合して、ひとりの患者さんを、みんなで診療する、というコンセプトが、この「意識」を変革することに貢献できたかとおもいます。

 患者さんの「意識」は確実に変わってきています。「大病院志向」には世代的な問題もあるかと思いますので、専門医の必要性を理解する比較的若い世代が多数をしめてゆくことでさらに変わってゆくことが期待されます。かれらは、大病院にいっても研修医が診てくれるなら、ベテランの近くの専門開業医に診てもらった方がいいという現実的な思考ができるかたがたです。

 遠くない将来に、患者さんの「意識の変革」、についてはある程度目途がたってくると考えております。

 最後に残った問題は、異種診療科目開業医間の診診連携です。

 先述しましたように、当時はまだ多くの年配の開業医の先生の標榜科目が、「内科外科整形外科皮膚科レントゲン科」などといった、多種多様の診療科目を掲げておられ、そもそも、「診診連携」といった概念さえも理解されなかった時代です。

 したがって、基幹病院への紹介も、たとえばかかりつけの先生が、患者さんが「膝が痛い」といっただけで、基幹病院整形外科にいきなり紹介しておられました。しかしながら、先述の「ずらりと並ぶ白いカルテ」の例をみてもおわかりのように、こんなことをやっているとただでさえ忙しい勤務医が疲弊していきます。

 どうしても、異種診療科目開業医間の診診連携でワンクッションおいてから、必要な場合に限って、基幹病院の専門科へ紹介する、といったシステムを構築することが必要であると思いました。

 先述の「膝の痛み」を訴える患者さんのケースでは、まずかかりつけの先生が整形外科専門開業医に紹介して、保存的治療をおこない、整形外科専門医がTKAなどが必要と判断したら、基幹病院整形外科に紹介する、というシステムを構想として描いています。

 逆の場合、たとえば、変形性膝関節症で整形外科診療所に通院している患者さんについて、検血で糖尿病を疑ったなら、かかりつけの内科開業医に紹介する。そしてもし内科専門医が糖尿病コントロール目的での入院が必要と判断した場合に、そこから基幹病院代謝内分泌科に紹介する、ということです。

 このような診診連携を構築してゆくことで、多忙な勤務医の負担が大幅に軽減されると考えています。

 (すこし話がそれますが、わたしは救急診療にたずさわることがなくなった今でも、就寝中に救急車のサイレンが聞こえ、それがだんだんと近づいてくると、発作性頻拍になるのは変わっていません。いつ聞いてもいやな音です。幸いなことに、心室細動から心停止になるまでには至ったことはありませんが。。。こういった過労死につながりかねないストレスから勤務医を解放することも肝要です。)

 また、開業医自身にとっても、専門外の診療をしないですむということは、心理的な負担の軽減につながりますし、最近激増している「専門外の治療を行った結果の不具合」による医療訴訟を避けるという面からも有利にはたらくと思われます。

 さて、ここで問題となってくるのは、開業医間の「意識」です。

 つまり、下世話な話で恐縮ですが、患者さんをとった、とられた、とかいったことです。医院の経営を考えなければならない、開業医の哀しき宿命、ですね。

 (余談ですが、開業に向けてある先輩にお話を伺いに言ったときのことです。患者は黙ってても来るから心配するな、あとは「人」と「税金」や、と教えていただきました。幸い「税金」については、諸先輩がたのように長者番付の常連となるほど儲かってはいませんので、あまり苦労したことはないのですが、「人」についてはいまも苦労が絶えません。特にナースは診療所にとって死命を制するくらい重要なのですが、これがなかなか開業医にはきてくれないのです。開業をお考えの先生方、覚悟しておいてください。ナースは診療所の宝、なのです。)

 さて、本題にもどります。

 幸い、この20年で、開業医も世代交代が進み、昔ながらの、「何でも診てくれる先生」はほとんど引退され、専門医としての開業、たとえば、内科では糖尿病などの内分泌代謝専門医として開業されるかたがでてきました。

 つまり、患者さんをとった、とられて、とかいったことにこだわることがなくなってきました。みなさんご自分の専門にプライドをもっておられ、専門外については他科専門医に紹介することに抵抗がなくなってきました。

 開業間もない頃の医師会の新年会で、わたしの近くで開業されていた年配の某先生(このかたは某大学消化器外科医局のご出身で、外科内科のほか整形外科もみておられおおいに繁盛しておられました)から、みなさんの面前で「この先生や!この先生がうちの患者半分もっていったんや!」となじられたことがありました。新参者のわたしは黙って耐えていましたが。ま、そういった時代でした。

 その先生も高齢を理由に引退されました。息子さんが後をついでおられますが、消化器内視鏡診療を専門とされており、共通の患者さんも多いことから、お互いの診療情報を交換しております。まさに時代が変わりつつあるのです。

 しかしながら、同業者である、整形外科開業医の間では事情は異なります。西成区でわたしが開業当初数名しかいなかった整形外科専門医は、いまや10名近くも開業しております。(いわゆるセッコツインもごまんとあります。その数半径500m以内に10軒以上も・・・・嗚呼。。。。)当たり前ですが、ごく一部の例外を除いて、整形外科専門診療所間で診診連携が成立することはありえません。診診連携の本来の意味は、「異種診療科目開業医間の診療所間の連携」ということなのですから。

 近隣に新しく整形外科専門診療所が開業するということは即患者減、収入減、経営難に直結します。整形外科開業医間における、患者獲得競争は激化の一途をたどっているのです。開業をお考えの同窓の先生、どうか西成区はおやめください!ほかにいいところはいっぱいあります!

 思わず興奮して話が横道にそれました。もうしわけありません。

 今後も診診連携、そしてその延長上にある病診連携の構築をわたしにのこされた余生のライフワークとして推進してゆきたいと考えております。

 開業医勤務医双方にとって有益になること、そしてなによりも、それが患者さんの幸福につながるということを信じながら。

 最後になりましたが、巻頭言執筆という栄誉を賜ったことに深謝します。

本同窓会と会員の皆様の益々のご発展を心から祈念申しあげて稿を終わります。
お読みいただきありがとうございました。