あうと・おぶ・ばうんず


いまそこにある危機 ― 2025年問題を考える

はじめに

諸兄は「2025年問題」をご存知であろうか?
社会保障制度改革国民会議報告書(p.7)に次のような記述がある。

3. 社会保障制度改革の方向性

(1)「1970年代モデル」から「21世紀(2025年)日本モデル」へ
 日本の社会保障の枠組みは、1961(昭和36)年の国民皆保険・皆年金を経て、年金や医療の給付の大幅な改善が実施された1973(昭和48)年(「福祉元年」と呼ばれる。)に完成されたものである。右肩上がりの経済成長と低失業率、それにより形成された正規雇用・終身雇用の男性労働者の夫と専業主婦の妻と子どもという核家族がモデルの下で、「現役世代は雇用、高齢者世代は社会保障」という生活保障モデルが確立し、また、高齢化率も現在に比べるとかなり低いレベルであった。これに対して、1990年代以降の国内外の社会経済状況の変化の中で、これまでの社会保障が前提としていた日本の社会経済構造は大きく変化してきている。

 まず、日本の人口構成は他国に類を見ないスピードで少子高齢化が進んでおり、2025(平成37)年には、いわゆる「団塊の世代」がすべて75歳以上となり、高齢者の中でより高齢の者が増える超高齢社会になっていく。

 また、社会保障支出が増える中、支え手である生産年齢人口は少なくなっていき、一方で、核家族化の進行や高齢世帯の増加、さらには夫婦共働きの増加により、家族や親族の支え合いの機能が希薄化し、また、都市化に伴う生活様式の全国的な浸透や人口の減少により、地域の支え合いの機能も低下していくことを免れない。

 さらに、高度経済成長期に形成され、安定経済成長期まで維持されてきた日本型雇用システムに代表される企業による生活保障機能についても、経済のグローバル化や経済の低成長に対応するために増加した非正規雇用の労働者については適用されず、これらの人々は企業の保護の傘から外れるといった状況になっている。雇用については、賃金や処遇の在り方を見直すことで、企業内の人材を育て、長期にわたって雇用する仕組みを維持しやすくすることが求められている。

 こうした社会経済状況の変化を踏まえ、日本の社会保障制度を「1970年代モデル」から「21世紀(2025年)日本モデル」に再構築して、国民生活の安心を確保していくことが、喫緊の課題となっている。

 わかりやすくいえば、2025年は団塊の世代がすべて75歳以上となり医療・介護ニーズが高まり、在宅医療の対象者が現在の2倍程度に膨らむとされている、現状のままではとても対処しきれないことから、社会保障制度の抜本的改革が必要とされている、ということである。

 これが「2025年問題」である。いまから10年ちょっと、まさに喫緊の課題といっていいだろう。(わたしは団塊の世代より数歳年下だが、当事者のひとりといっていいだろう。できれば医療も介護もお世話にならないで、健康でゴルフでも楽しんでいられるように希望したいところだが。)

 社会保障制度改革国民会議報告書がこの八月に公表された。「2025年問題」を念頭におきつつ、社会保障制度をどのように抜本的に改革するか、精細に近未来の医療と介護についてグランドデザインが描かれている。

 本稿第一部では、社会保障制度改革国民会議報告書からまず、わたしなりに今後政府が社会保障制度全般をどうしようとしているのか、「何をたくらんでいるのか」を批判的に読み解いたことをご紹介したいとおもう。

 そのあと第二部では、2025年描いた問題を念頭に、医療と介護の未来図を考えてみる。医療と介護をわれわれの手に取り戻すためには、われわれ医師、そして医師会はどう行動すべきなのか提言させていただく。

 もちろん、国家の方針が決まったわけであるからして、この方針からおおきく逸脱することはできない。しかし、社会保障制度改革国民会議報告書にあるように、この政策の実現化具現化には、医師、医師会の協力が絶対条件と彼らが言うのであるから、われわれから修正案改善案を提案することはできるはずである。

 その修正案改善案を第二部では提言してゆきたい。