あうと・おぶ・ばうんず


我がゴルフ遍歴

 医学部を卒業して大阪大学整形外科学教室に入局後最初の大学病院を皮きりに、4 年間の間に4 つの病院をローテートした。その間ゴルフはたまに院内コンペに参加するくらいであまり熱心ではなかった。どこの病院でも先輩にゴルフの達人がおられて、ゆくさきざきで、ときおり手ほどきをうけていたので、スコアは110 -130 程度であったと記憶している。まあ、あまり人に重大な迷惑をかけるほどではなかったかと思う。それほどゴルフに執着していたわけでもなく、仲間と楽しく回れればいいと思っていた。(この頃は独身だったし、他に楽しいことがいっぱいあったためではないかと思われる。詳細は忘れたが)

 研修を終えて、医長として次に勤務を命じられたのは、大阪市内のある総合病院だった。整形外科の年間手術件数が軽く千を越え、整形外科医の数も二十人をこえる、整形外科としては最大規模の病院だった。当然忙しくてクラブを握る暇もないだろうと覚悟して赴任した。ところが、主任部長のY 先生がありがたいことに無類のゴルフ好きであられたことが幸いした。同じ阪神タイガースのファンだったこともあり、可愛がっていただいた。院内コンペや整形外科医局コンペ、そしてゴルフつきの医局旅行などの年中行事、そしてプライベートラウンドと、仕事はともかく、ゴルフに関してはいままでで最も充実していたと思う。(奇しくもこの年は阪神タイガースが日本一になった年だった!)Y 部長は腕前のほうもシングルで、豪快なドライバーにはいつも驚嘆させられたものだった。

 ある日いつものように外来をしていると、30 代の男性が、首の痛みで受診した。聞けば昨日ゴルフにいってから痛むとのこと。レントゲン所見および神経学的には著変はなかったので、「頚椎捻挫にともなう筋筋膜性頸肩腕痛」と診断したのだが、そのあとが余計だった。「恐らくショットの際に頭が上下動して、頚椎を捻挫したのでしょう。ゴルフはなるべく頭を動かしてはいけません。今後気をつけてください。ところでハンデは」「私? 7 です」-冷や汗がたらり、であった。コンスタントに100 を切れるようになってきて、ゴルフがわかったつもりになって生意気になっていたのだろう。それからは、ゴルフで腰や首を痛めて来診する患者さんには、かならずハンデを聞くようにしている。

 平成三年五月に天神の森コットンビルで開業して今年で十年になる。開業前後から忙しくてしばらくクラブを握っていなかったが、運動不足もあり、コットンビルの林先生と北野先生と一緒にレインボー会に入会させていただいた。初参加した平成四年七月の有馬CC でのレインボー会ではスコアは丁度100 だった。ブランクがあったわりにはまあまあであったかと思われる。その後も100 前後をうろちょろするゴルフに満足していた。

 ある時、確か北六甲でのレインボー会で槙山先生と御一緒したときに、ひどい大叩きをしてしまった。そのときに槙山先生が嘆きつつ言われた一言がその後の私のゴルフ人生を決定した。曰く「整形外科医はゴルフは上手なはずやけどなあ・・・」-確かに、整形外科医のゴルフのレベルは他科の医師より高いと推定される。医局の先輩後輩にはシングルプレーヤーが大勢おられるし、同窓会などでは、クラチャンやホールインワンの話題がよくでる。専門が運動器を扱う分野であることや、それ故に学生時代からのスポーツの経験者の入局が多いこと、などが理由として考えられる。整形外科医とゴルフの腕前についての詳細な統計学的考察はまたの機会に譲るとして、話が横道にそれたが、その時にこう決意したのだった。「まずい。このままでは俺の整形外科医としてのアイデンティティ(?)にもかかわってくる。ゴルフの腕を磨こう」と。以来、週に1 回知り合いのプロに個人レッスンを受けることにした。そして、いまはなき「しろやま」で日曜日などは朝から晩まで打ちまくった。この頃の癖で、いまでも5箱以上打たないと練習した気がしない。(最近は体力的かつ経済的理由から、2、3箱程度でやめるようにしている)練習の成果が出てきだすと、80 台のスコアもぼつぼつ出るようになり、今にいたるまで何回かレインボー会で優勝させていただいた。

 先輩諸兄から、本格的にうまくなりたいならホームコースを持つべしとアドバイスされた。あれこれ迷った末、平成十年にABC ゴルフクラブに入会した。レインボー会の大先輩であられる、佐々木先生、岡田先生、櫟原先生がメンバーでおられたことと、いつもプロのトーナメント中継で見る、池がからむ最終18 番ホールが印象的だったことでこのクラブを選んだ。昨年は月例杯B クラスで優勝することができた。あと1 つハンデが上がれば念願のAクラス入りであるがなかなか難しい。なんとか今年中に達成したいのだが。

 最近では、ゴルフ阪神住之江でいまや師匠と仰ぐ槙山先生にときおり御指導いただいている。(最近杉本秀樹先生も槙山学校に入られたようである。まだ成果のほうはいまひとつであるが)

 また、あまり大きな声ではいえないのだが、患者さんのなかでロウハンデのひとに診察中にレッスンしてもらう、いわば院内レッスンをしてもらっている。幸いなことに、当院の患者さんには、ハンデ2 を頭に、クラチャン、シングルが結構おり、診察中に他の患者さんそっちのけでレッスンをしてもらうことがある。やはり彼等の指導は的確だなぁといつも思っている。これでは一体どちらが診察されているのかわからないが。

 さて「ゴルフの魅力」とはなんだろうか。自然との対峙、スポーツ競技としての面白さ-いろいろあろうかと思われるが、私は、二度と同じ条件でボールを打つことがない、いわば人生と同じく、「一期一会であること」ではないかと思う。そういえばゴルフはなんと人生に似ていることか。山あり谷あり、OB もあればバーディもある。人生でも時にOB することがある。まあ私の年では、もう打ち直しはきかないので、前進4 打ということになるのだろうが、それでも前には進める。いろんな困難、苦悩を克服して歓喜に至る、まるでベートーベンの合唱交響曲におけるシラーの「歓喜に寄す」の詩のような、いわば人生模様こそが、ここまで人がゴルフに魅せられる大きな理由ではないか。

 炎天下、脱水寸前で歯をくいしばりつつフェアウエイをさまよう姿、そして小雪がちらつく凍てつくような寒さの中で、パットを終えた4 人が、パター片手に無言で次のホールへ行進する様はまるで修行僧である。されば、大いに悩むべし、苦しむべし、苦悩を克服した後の歓喜を享受するために-この悟りの境地に到達するために、今日もクラブを握り締めてボールに立ち向かおう!